最近、懐かしアニメにハマっていて、今敏監督の『千年女優』を数年ぶりに見た。
『千年女優』は、日本映画史上にその名を残す大女優が初恋の相手を思い続ける物語。
ティーンの頃は千代子の一途さを素直に尊敬していたが、これは大人になってから見ると全然違う感想が湧いてくる。感想は後述で語るが、また10年後も見返したいと思える名作なのは間違いない。
【千年女優】は、2002年9月14日に公開された今敏監督によるアニメ映画。制作会社はマッドハウス、ジェンコで、配給はクロックワークス。
第6回ファンタジア国際映画祭・最優秀アニメーション作品賞&芸術的革新賞、第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞(千と千尋の神隠しと共に同時受賞)、第33回シッチェス・カタロニア国際映画祭・最優秀アジア映画作品賞など、国内外の様々な賞を受賞するなど評価が高い。
監督の今敏は『PERFECT BLUE』『パプリカ』『東京ゴッドファーザーズ』などで知られる90年代後半〜2000年代初期を代表するアニメ監督。残念ながら2010年8月24日に膵臓がんで46歳という若さで亡くなられている。
以下、全文ネタバレあり。映画未視聴の方は注意してください。
藤原千代子
CV – 70代→莊司美代子、20~40代→小山茉美、10~20代→折笠富美子
映画会社「銀映」の看板女優で、日本映画史上にその名を残す大女優。女学生だった頃に鍵の君との運命的な出会いを果たし、彼との再会を夢見て「銀映」に入る。入社後は数多くの作品に主演として出演し、日本映画界のスターに登り詰めたが、ある作品の撮影中に突然失踪しそのまま引退してしまう。
立花源也
CV – 飯塚昭三、青年期→佐藤政道
映像制作会社「VISUAL STUDIO LOTUS」の社長。千代子の半生を辿るドキュメンタリーの制作を企画し、彼女を取材しにやってくる。現在60歳で、千代子の熱烈的なファン。若い頃は「銀映」で働いていた。
井田恭二
CV – 小野坂昌也
立花の部下でカメラマン。関西弁。
島尾詠子
CV – 津田匠子
千代子が入社する以前の「銀映」の看板女優。千代子をいじめる。
大滝諄一
CV – 鈴置洋孝
「銀映」専務の甥。後に監督に昇格し、千代子と結婚。
鍵の君
CV – 山寺宏一
絵描きの青年で、当時の思想犯。千代子が想いを寄せる相手。
傷の男
CV – 津嘉山正種
官憲。左の頬に傷がある男。思想犯の取締りを担当し、鍵の君を付け狙う。
かつて一世を風靡した女優の語る一代記……のはずが、その思い出はいつの間にか彼女が出演した映画のエピソードと渾然一体となり、彼女の話を聞くインタビューアー二人を巻き込んでの波瀾万丈の物語になって行く。
関東大震災と共に生まれたその人、藤原千代子。
千代子の話は戦争の足音が近づく帝都東京から始まり、満州に舞台を移したかと思うと、あろうことか、はるか戦国時代に時を移し、彼女は燃える城で姫君に 姿を変えたかと思いきや、はたまた江戸時代のくの一に扮して侍相手に大立ち回りを演じ、ときに幕末の遊女に身をやつしては上の太夫にいじめられ、町娘に姿 を変えて幕末の京都をひた走れば新撰組に脅され、明治の牢獄で官憲にいたぶられながらも必至に耐えた彼女が、やっとの思いで獄舎を抜け出したその先は昭和 の大空襲……。
女は映画という虚構と現実の間を自由に行き来しながら、時間と空間を越えて行く。
その千代子の想いはただ一つ。初恋の殿方に一目会たい。
http://konstone.s-kon.net/modules/ma/index.php?content_id=
まずは公式HPのあらすじを読んでもらって‥。
要約すると【千年女優】は、
初恋の相手・鍵の君を追いかけ続けた女優・千代子の生涯を描いた物語。
以下、順番に考察していく。
この映画はインタビューによる回想でストーリーが進んでいくが、表舞台から姿を消していた千代子がインタビューを受ける気になったのは、源也が「鍵」を持ってきたから。
千代子は、「鍵の君」との思い出の「鍵」を肌身離さず持っていたが、あるとき失くしてしまう。その鍵の行方がこんがらがるので整理しておく。
撮影中に鍵を失くす。
↓
千代子、大滝と結婚。
↓
家の中で鍵を見つける。大滝と島尾詠子がグルになって鍵を隠していたことが判明。
↓
女優復帰。撮影中の事故で鍵を落とす。
↓
源也が拾う。そのまま千代子は表舞台から姿を消す。
このようにして鍵は源也にたどり着いた。
最初はなぜ源也が鍵を持ってきたのか理解できなかったが、物語中盤で源也が若いころ「銀映」で働いていたことが判明。
近くで接していたにも関わらず、ずっと好きでい続ける一途さはすごい。ここまで長年の熱狂的ファンを作り上げるとは、千代子さんは間近で見たらとんでもなく可愛く性格もよかったに違いない。
千代子は、鍵を落としてしまった撮影での事故のあと、そのまま女優を辞めてしまう。
インタビューで「老いた自分を鍵の君に見られたくなかったから」と千代子は語った。
しかしこの映画のラストは「だって私、あの人を追いかけてる私が好きなんだもの」という千代子のセリフで締め括られている。
会えても会えなくもどちらでもいい。あの人を追いかけている自分が好き。
なのに老いた自分を見せたくない!?
千代子の本心がどれなのかこんがらがるが、これは三十年間隠居した千代子が達した境地なんじゃないかと私は解釈している。
「あの人を追いかけている自分が好き」と結論付けることで千代子は自分の人生に折り合いをつけたんじゃないかと。
もちろん「老いた自分を見られたくない」というのも本心だろう。女心とは(というか人間の心とは)、日々移り変わるもの。それでも鍵の君が好きという根本は変わらない千代子は一途な人だと思う。
「銀映」時代の源也は、かつて鍵の君を拷問した官憲(傷の男)から、鍵の君はすでに死んでいると聞かされていた。
つまり千代子はいない相手を追いかけていたというわけだ。
しかしさすがの千代子も鍵の君は死んでると早い段階で気づいていたんじゃないだろうか。
そこまでおめでたくはないだろうし、死んでいるからこそ、彼を追いかけていたんじゃないかと私は思う。
命をかけて大きな権力と戦った鍵の君が初恋の相手じゃあ、平和な世の中で出会う男たちと恋愛する気にもならないだろう。
私が『千年女優』を初めて観たのは高校生の頃だった。まだティーンエイジャーだった私は、初恋の人を思い続ける千代子に憧れ、純愛の素晴らしさに感動したものだ。
しかし大人になった今では、全く違う感想が湧いてきた。
千代子の初恋を追いかける姿はもはや狂気。
十代の頃、ほんの少し一緒に過ごしただけの相手を死ぬまで思い続けるなんて正気の沙汰じゃない。
一度結婚はしているようだが、愛があったようには思えないし、千代子は生まれてから死ぬまで鍵の君しか愛していなかったと思う。これって真似できることじゃない。
私が千代子さんを理解できないのは、前述したように命をかけて大きな権力と戦ったような人と出会って好きになったことがないからかもしれない。時代的に難しいことだが、好きな人や初恋の人が亡くなった人なら千代子さんの気持ちが分かったかも。初恋相手にいい思い出がない私には理解できない話だ。
しかしおばあちゃんになってこの映画を見返し、千代子さんと同じように誰かを思い出せたら幸せだとも思う。もう初恋の相手ではないけれど、千代子さんのように「あの人を追いかけている自分が好き」と言えるような相手をなんとかして探したい。このままだとアニメのキャラクターになりそうな予感だが。笑
現実か映画か過去か未来か分からない構成はシンプルに好き。今敏監督は、村上春樹を愛読していたらしいが納得。
ということで【千年女優】は年取ってもう一度見たい映画リストに入れておく。